明治期に入り,文明開化により西欧との交流が盛んとなり西洋文化が普及するとともに,日本の伝統文化が海外に知られることとなった。そして数多くの美術品が,当時日本にいる外国人の手を経て海外に渡った。その当時の記録が史資料に散見される。その多くは,絵画および彫刻に関する情報が多く知られているが,工芸品については,具体的にどの作品が海外にわたったのか,数例を除きその詳細は具体的にわかっていない。
そこで今回,Le Musée des Arts Décoratifs にてフランスに渡った美術工芸品を対象とし,染織文化財に的を絞り精査を行った。
研究の結果,以下のことがわかった。① Le Musée des Arts Décoratifs は,その設立母体との関係から,平面デザインとしての価値を基準として美術工芸品のコレクション化が行われており,それにはBing Siegfried が深く関わっていたこと。② Le Musée des Arts Décoratifs の所蔵する日本の染織文化財群では古裂のコレクションが充実しており,収集された18 世紀末から19 世紀という特定の年代が,明治の神仏分離・廃仏毀釈の時期と重なり,日本国内に残っていない宗教美術品と見られる古裂類がコレクションされていること。③江戸期の能装束と見られる唐織がコレクションされていること。また,袈裟関連資料を確認でき,とくに江戸期に珍重されていたと推測される大陸由来の14-16 世紀の貴重な刺繍袈裟が収蔵されていること。